Topic 第61話 異常な光景!中央線開かずの踏切 (04/02/01)

開かずの踏切も極限状態!

 2003年10月、ある日曜日の朝、私は報道番組でのVTRに思わず見入ってしまいました。

 踏切の前でサンドイッチをほおばる男子高校生、教科書を広げて英語の予習をする女子学生、あくびをして待っている人や、うんざりした表情をして携帯で連絡を取っているドライバー。 遮断機が下りてから既になんと20分以上が経過していたのです。 踏切前は人で溢れ、道路は大渋滞。これだけ長時間にわたって遮断されると、通勤や通学に大きな支障が出ることは明らかです。いつ開くとも分からない遮断機の前で、苛立ちと諦めが入り混じった人々の表情…。もう何本の電車が目の前を通過していったでしょうか。

 踏切が閉まってから約1時間経過して、ようやくにして開きました。歩行者、自転車、車が一斉に踏切内に「ヨーイ、ドン」状態で突進していきます。このチャンスを逃したら、また1時間待たされるかもしれないわけですから、危険なのは分かっていても急ぎたくなる気持ちは分かります。

 そしてせっかく開いたと思ったら、すぐ再び警報機が鳴り始めて、30秒もしないうちに踏切が閉まってしまいました。無理をして進入した車や人が、まだ渡りきれずに踏切内に取り残されています。警備員が「早く外へ出てくださーーい!!」と絶叫していました。まさしく極限状態であります。

 現場は、東京都武蔵野市のJR中央線山中踏切。この現象は2003年9月下旬に行われた中央線高架工事の大失態の副産物であり、踏切の横断距離が長くなったため、朝夕の遮断時間が1時間あたり55分から59分に延びていたのです。高架工事は、「開かずの踏切」を解消するために行われるものであり、皮肉にもその過程で余計にひどくなったというわけです。このようにして、付近の10箇所以上の踏切が、今回の高架工事の影響で遮断時間が長くなり、開かずの踏切に拍車がかかったわけです。

 私自身の経験では、大学時代にJR阪和線の踏切でずいぶんと待たされた記憶がありますが、せいぜい5分くらいでした。それでも相当長く感じました。これが1時間、それもいつ開くとも分からないとなれば、我慢の限界を超えるでしょう。

連日のトラブル発生、対策へ

 危険と背中合わせの状態ですから、連日のように事故やトラブルが起こりました。

 10月10日午前7時過ぎ、小金井市の本町踏切で老夫婦が渡りきれずに踏切内に取り残されたため、普通電車が緊急停車。同じ10日夜には、前述した武蔵野市の山中踏切で車が線路を渡りきれないまま遮断機が下り、回送電車が緊急停車。15日朝には、小金井市小金井街道踏切で車2台が無理に進入し立ち往生、警備員が異常を知らせるボタンを押して電車を停止させました。17日午前9時半頃、下りた遮断機の下をくぐろうとした74歳の男性が転倒し足を骨折するなどなど、工事後18日間で40件もトラブルが相次いだのです。特に、お年寄りや体の不自由な人などは階段のある歩道橋に迂回することもままならないので、やむなく、通れる時間が短くしかも車と人が猛スピードで行き交う踏切を利用するしかないわけです。いくら24時間警備員が常駐しているとは言え、大変危険な状態と言えるでしょう。

 この異常な事態を受けて、JR東日本は踏切の遮断時間を少しでも短くするよう制御方式を改良することを発表しました。しかし装置を改良しても1時間あたり40秒しか短縮できないと言います。また、東小金井駅には自転車用のエレベータを設置し、自転車が駅の通路を通りやすくするなど、考えうる対策は打ち出したものの、効果を期待できる内容ではありませんでした。

 見かねた小泉首相が踏切の上に橋梁を設置するなどして周辺住民の不便を解消するよう国土交通省に指示、トップダウンで改善に取り組むことを決めました。小泉首相に「皆さん、あんなのよく我慢してますね。」と言わしめるほど、ひどい状態だったのです。2箇所の踏切にエレベータ付きの仮設の歩道橋を設置し、他の踏切も歩道拡幅などの対策をすることになりました。

●業者任せの実態が「見通しの甘さ」を生む

 10月21日、国土交通省はJR東日本に対して立ち入り調査に入りました。高架工事の失態と京浜東北線での工事器具放置による事故に加え、今回の「開かずの踏切」問題についても「見通しの甘さから地域住民に迷惑をかけた」として急遽調査対象になりました。

 専門家によれば「一度に約6kmもの区間で線路を切り替えるのは、作業効率や工事費削減を考えてのことだろうが、計画そのものに無理が生じるのではないか」との見方が多いようです。私はこれに加え、高架工事の配線ミスと同様、JR側の監督指導体制がなっておらず、施工業者任せになっていたのが原因と考えます。

 踏切の遮断時間が延びて付近住民が大迷惑することをなぜ事前に予測して対策ができなかったのか。結局はそういうことになってくるわけですが、工事の計画を立てるときに、乗客や住民など、いろんな立場の人間の視点に立って全体の設計をしていなかったのではないでしょうか。下請け業者は言われた計画に基づいて工事を実施し、手順通りに作業を行うことが求められますが、仕様書にない不具合を指摘する役割は担っていません。仮に薄々気づいていたとしても、報告したがために問題になったら自分の会社の仕事が飛んでしまうわけですから、そう簡単に口出しできないでしょう。業者任せの実態が、このような致命的な不具合を見逃すことに繋がったと思われます。

 事前に問題に気づいていれば、歩道橋を先行して作ったり、民主党の菅代表の提案のように上り線と下り線の間に安全地帯を設けて踏切を分割するように線路配置を考えることができたかもしれません。

 最後に、私が勤める会社で似たような失敗が以前あったので参考までに紹介します。あるPCソフトウェアの開発と品質保証業務がすべて派遣社員に任されていました。派遣社員は提示された仕様書の通りにソフトウェアを作成し、品質チェックの結果もOKとなりました。しかしこのソフトウェアは出荷直前になって使い物にならないことが発覚したのです。問題になったのは制御に要する処理時間で、仕様書には何秒以内と明示されていませんでした。そのため、開発者はプログラムを最も安全に処理することに注力し、長い処理時間を要することになったのです。しかも品質チェック担当者も仕様書に処理時間の記載がないとして問題視せずにOKを出してしまったのです。ところがこれは製品全体を知る者が見れば、話にならないくらい長い処理時間で、発覚した途端に大騒ぎになり、結局他の不具合も見つかって出荷が大幅に遅れてしまいました。

 ユーザの視点に立てば、とんでもなく使い勝手が悪いことは明らかなのに、それが出荷直前まで見逃されてしまった。それは派遣社員に責任をすべて押し付けることはできません。開発体制・品質チェック体制とその全体管理に大きな構造的問題があったと言わざるを得ないでしょう。その後、反省を踏まえて品質チェック体制が大幅に強化されました。また開発体制についても、よりユーザの視点に立ったものに見直しが進み、大きく変革しようとしているところです。

 JR東日本も、今回の失敗を最大の変革のチャンスとするべき時ではないでしょうか。


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