Topic 第67話 恐怖の丸太乗り上げ〜JR紀勢線脱線事故〜 (04/07/26)

●紙一重で大惨事に

 「一つ間違えたら大惨事だった」「不幸中の幸い」と周辺住民が声をそろえた事故。そう、想像しただけでも背筋が凍るほど恐ろしい、JR紀勢線の脱線事故のことです。

 2004年6月2日午前7時ごろ、海南市の国道42号で大型トレーラーが横転し、対向する軽乗用車と衝突、両車両の運転手2人が軽傷を負いました。話はそれだけでは終わりません。トレーラーの積荷の丸太約30本が道路下の線路に落下し、十数分後に現場を通過した快速電車が、散乱していた丸太に乗り上げて脱線したのです。

 偶然にも、丸太の一部が車輪に挟まり、ブレーキの役目を果たした格好で、電車はトンネルの側壁に衝突する直前で停車しました。乗客約500人中軽傷者17人を出しただけで、幸いにも死者・重傷者が出る大事故は免れました。もし横転したトレーラーそのものが線路に落下していたら…と思うと不幸中の幸いだったと言えるかと思います。事故に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。

●十数分間経過してなす術なし

 今回の脱線事故の原因となったトレーラー横転が午前7時ちょうどごろ。1分後、県警通信指令室に事故の第1報が入りました。程なく午前7時3〜5分に「丸太が線路に散乱している」と障害物の存在を知らせる通報もありました。県警指令室は海南署に現場確認を指示するとともに、鉄道警察隊を通じてJRの天王寺指令所に電話連絡しました。この時点で午前7時11分、電車は事故現場の冷水浦の1つ手前である加茂郷駅を既に出発していました。

 この段階で電車を止める手段は信号機を赤に変えるか、無線で指示を出すしかありません。ところが、信号は事故現場を過ぎた後の海南駅までありません。そこで指令所は無線で運転士に連絡を試みました。しかし、丸太が落下した際に、無線連絡に必要なアンテナ間を結ぶ通信ケーブルが切断されており、指令員が列車番号を呼びかけても交信できず、まさになす術なしとなってしまいました。

 午前7時15分頃、トレーラーの事故発生から15分も経過してから、何も知らない快速電車が時速80kmで現場に差し掛かり、急ブレーキをかけましたが間に合わず、丸太に乗り上げて脱線と言う結果になってしまいました。

●現場近くの住民から疑問の声も

 現場近くに住んでいる人は、トレーラー横転の際に「ドーン」という大きな音を聞いたといいます。驚いて外に出ると線路に丸太が散乱しているのを見たとのこと。最初の横転事故から数分間に10件以上の110番通報が寄せられています。

 それから10分以上の時間が過ぎました。「当然電車には事故の連絡は入っていると思っていた」と考えるのも無理はありません。そこへ目の前を電車がものすごいスピードで走ってきたわけですから、「え、うそ…、何で止まらないの?」と驚き、「『止まれ!』と手を振ったが間に合わなかったみたい…」。衝突の瞬間は怖くて目をつむった人もいたそうです。

 110番通報もしたし、10分以上経過しているわけだから、電車がそのまま突っ込んでくることはまさかないだろうと思ったのでしょう。もちろん、電車が何も知らずに走ってくることをもし知っていたら、発炎筒などを焚いて列車に非常を知らせる人がいたかもしれません。「何とかならなかったのか」と疑問の声があがりました。

●再発防止の検討は必要

 今回の脱線事故、まず元々の原因となったトレーラーが過積載だったとのことで、これについては責任が追求されることになります。しかし、電車の脱線に関しては警察・JR指令所・運転士に特段の落ち度は見当たらず、それぞれの役割を懸命に果たしたとは思います。

 しかし、結果としては近くの住民が不審がるようなお粗末なものだったわけで、再発を防止するためには何ができるのか検討が必要です。国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会が事故当日の夕方から原因調査を始めました。

 まずは、JR側への連絡が若干もたついたように思います。県警の指令室が鉄道警察隊を介してJRの指令所に連絡しています。このためJR側が緊急事態を認識するのに10分もかかっています。電車があと数分で現場に差し掛かるような状況であれば絶対に間に合いません。県警指令室からJRなど関係機関に直接迅速に連絡できる体制を整える必要があると思います。

 それともう1点、納得できないのは列車無線が通信ケーブル切断によって使えず、連絡手段がなくなってしまったことです。今回は丸太の転落と言うアクシデントで切断されたわけですが、大雨などで土砂崩れがおきたときに切断されることがあるかもしれません。そうしたときに危険なのを分かっていながら連絡手段が他に何もないのはあまりにも頼りないと思います。携帯電話全盛のこの時代です。無線がダメでも他の非常用連絡手段が欲しいところです。信号機が丸々2駅分も設置されておらず、赤信号による停止手段を講じることができなかったのも課題です。ローカル線だから列車間隔が開いており、保守費用の関係で信号機を少なくしていると思いますが、こうした緊急事態に列車を停止させる役割があるわけですから、1駅に最低1つ以上の信号機を設置していただくようお願いしたいです。


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