
| Topic 第75話 人間と機械化の両立を!〜重大事故2件を受けて〜 (05/04/02) 世間ではライブドアとニッポン放送&フジテレビとの経営権をめぐる争いに注目が集まる2005年3月、列車運行の信頼を揺るがす重大事故が2件も続けて発生しました。 ●特急が駅舎に激突〜土佐くろしお鉄道宿毛駅〜 2005年3月2日午後8時40分頃、土佐くろしお鉄道宿毛駅で、特急「南風17号」が暴走、ホームを通り過ぎて終点の車止めを突き破って駅舎に激突、先頭車両は原形をとどめないほどめちゃめちゃに壊れて運転士が死亡、乗客ら10人が負傷する事故がありました。 今の時代にはにわかに信じられない大事故です。ATS(自動列車停止装置)がありながら、なぜ事故を防ぐことができなかったのでしょうか。 この特急は、事故直前の停車駅である平田駅までは正常に運転されていたと言います。その後、時速110〜120kmで高速走行するまでは問題なかったのですが、 関係者の証言から、減速地点に来ても減速せずに高速のまま宿毛駅に進入したのではないかと見られています。またこの列車には、EBと呼ばれる、1分間マスコンやブレーキを操作しなかった場合に警告音が 鳴ってさらに5秒放置すると非常ブレーキがかかる装置がありました。運転士が失神したり居眠りした場合の安全対策のためですが、運転士に異変が起きるタイミングがもし偶然駅の直前であれば、機能することはありません。 そして、ATSについては結果論から言いますと非常に貧弱なものでして、場内信号直下では赤信号無視しかチェックしておらず、注意信号なのにとんでもない高速で進入しているにも関わらずブレーキがかからない仕組みでした。宿毛駅の停止位置の手前178mとホーム中央付近にはそれぞれ25km/h、22km/hの速度照査があり、この速度をオーバーすれば非常ブレーキがかかりますので、この2つの照査には間違いなく引っ掛かったはずです。ところが、これらの速度照査はあくまで列車がある程度減速していることを前提にしていますので、時速100kmを超えるような暴走には対応しきれませんでした。このATSの位置づけ 自体が、運転士の瞬間的なミスをバックアップするだけのものだったからです。 さらに、事故を起こした土佐くろしお鉄道では、車掌用の緊急対応マニュアルを整備していなかったことも明らかになりました。車掌が列車の異常を察知したとしても、非常弁を引く具体的な方法について十分な研修がなされていなかった とのことです。 これがもし宿毛駅のような終端駅ではなく、かつ停車駅の向こう側の線路が直線の場合は、仮に運転士に異変が起きて列車が停車せずに行き過ぎたとしても、ATS動作や車掌による非常弁操作等によって停車させれば、大きな事故にならずに済む可能性があります。しかし行き止まりの駅や、駅の向こう側がポイントや安全側線の車止めなどのように行き過ぎが許されない場合は、それ相応の安全対策があってしかるべきではないかと思います。南海電鉄の場合は、減速・注意信号はもちろんのこと35km/h、25km/h、15km/hとこれでもかと言わんばかりに速度照査がありますので、極端に言いますと全くの素人が運転しても衝突事故にはならないのではないかと思うくらい万全です。 費用面の事情もありますので、ATC(自動列車制御装置)などを含む完璧な速度管理は難しいかもしれません。しかし、上述したような行き過ぎが許されない駅ではやはり安全対策を万全にしていただきたく思います。国土交通省は3月29日に、行き止まり駅にあるATSの安全性向上について、全国の鉄道事業者に緊急に整備計画を立てるように指示しました。まさに、今回の事故は「十分防げた事故」だったと言えると思います。 ●手動遮断機の操作ミスで4人死傷〜東武伊勢崎線踏切〜 「未だに手動遮断機の踏切があるなんて…」私が事故を新聞で知ったとき最初に思ったことです。 2005年3月15日午後4時50分頃、東武伊勢崎線竹ノ塚駅近くの踏切で、横断中の歩行者らが浅草行きの準急電車にはねられ、2人が間もなく死亡、2人が軽傷を負う事故がありました。現場の踏切は、職員が電車の接近を知らせる連動盤を見ながら、ハンドルを回して遮断機ロープを上げ下げする仕組みでした。事故当時、担当職員は下げておかなければならなかった遮断機を誤って上げてしまい、歩行者らが踏切に入って、時速90kmで走行してきた準急電車にはねられたのです。 この事故はその後の調べで、職員の単なるミスでは片付けられない根深い問題であることが分かりました。東武鉄道は、「踏切の長さが33.2mと長く、安全上、歩行者や故障車が取り残された場合にすぐ対応できるように有人にしていた」と説明しました。一方、この踏切は「開かずの踏切」として有名で、事故当時はダイヤ上9分30秒間は開かずに10本の電車が通過することになっていました。「できるだけ多くの人を通してあげたい」と言う人情が働いたのか、安全のための手動式が、ぎりぎりまで遮断機を下げないための”危険な手動式”に目的が変わっていったのです。 電車接近時は一旦遮断機を下げるとロックがかかって本来は遮断機を上げられない仕組みになっていると言います。担当職員はこの内規に違反して、駅長の指示を受けることなく自分の判断でしかも連動盤の確認も怠ってロックを解除していたそうです。歩行者を円滑に通してあげたいと言う気持ちが、内規を違反しているという感覚を麻痺させることに繋がり、いつ事故が起きてもおかしくない危険な状態が日常化していたのではないかと見られています。接近ランプの点灯の確認を忘れたとかは、事故を起こす最終的な引き金に過ぎないと思います。 また、本来は踏切の係員詰め所には4人の職員がいましたが、引継ぎやトイレのため不在で、実質1人しか業務についていませんでした。事故を起こした職員は以前にも遮断機を下げ忘れるトラブルがあったにもかかわらず、駅長が口頭注意したのみで東武鉄道には記録として残っていなかったそうです。そのほかにも、他の職員が携帯メールに気を取られて遮断機を上げるのを忘れる事象があったなど、気の緩みと思われる会社全体の安全管理の甘さが伺えます。内規の遵守徹底はもちろんですが、こうした事故の前兆ともいえる小さな事象を見逃さないことも、重大事故防止のためには必要なことであります。 さらにその守るべき内規にも疑問点が出てきました。この踏切では、警報音が鳴って遮断機を下げた後は、係員が手動で音を消すように定めていたのです。自動的に音量を下げる踏切はありますが、音を完全に消すと言うのはいかがなものでしょうか。周辺への騒音の配慮ではないかと思われますが、目前を列車が高速で行き交うのに警報音が全く聞こえないなんて安全を軽視していると解釈されても仕方ないでしょう。事故翌日の16日には、東武鉄道本社が業務上過失致死傷の疑いで家宅捜索を受ける事態となりました。会社が内規違反を黙認していた疑いまでもたれています。 根本的な解決は立体化して踏切そのものをなくすことです。が、それが無理だからといって有人による手動遮断機を残すという発想は、私にはちょっと理解しかねます。あくまで遮断機は機械で自動的に動作し、安全確認と万一の時には非常停止ボタンなどを押して列車を緊急停止させることのみを人間が行う、他社が距離の長い踏切で一般的に行っているやり方にすべきではないかと思います。 ●人間と機械の両方が安全確認をすることが重要 宿毛駅での特急暴走事故、東武線の踏切事故。事故の背景も内容も異なりますが、共通して言えることは「人間の力に依存しすぎていないか」と言うことです。 特急暴走事故では、時速100km以上の高速走行をする区間がありながら、速度照査時点ではある程度まで減速していることを前提としていました。一部報道によっては「運転士は運転のプロだから無駄な機器は取り付ける必要はない」と現場の声を幹部が無視したとされる証言まで出ています。一方の東武線踏切事故では、安全のためだったはずの手動式が、できるだけ多くの人を通すためのある意味臨機応変な反面、確実に危険な踏切へと変わっていったのです。そして会社の安全管理がずさんで現場任せだったことも厳然たる事実です。 今回のトピックでは、すべての安全管理は機械に頼るべきと言いたいのではありません。安全対策を装置や機械だけが行うことでは不十分ですし、逆に人間任せになっている状態も不十分です。人間と機械は決して相反するものではありません。お互いに補完しあうものと私は考えます。機械だけでも、あるいは人間だけでも安全管理を万全にできるように体制を整備しておく必要がありますが、仮にどちらかに異常が発生しても残る片方でしっかり対応できるようにしてこそ”完璧”と言えると思います。鉄道事業者は、人の命を預かっているんだと言う自覚を持って、現状を謙虚に見直し、重大事故に繋がる前に”先手の安全対策”に注力していただきたいと思います。 |
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