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Topic 第80話 国鉄民営化が生んだ企業風土〜JR福知山線脱線事故Part4〜(05/07/16) ●脱線事故の背景を整理 JR西日本の危機管理の甘さは、以前から弊サイトで何度も指摘してきました。その度に、事故の対応だけでなく危機管理全般に渡って見直すべきと述べてきました。特に、2002年11月の二重事故や2003年2月の新幹線居眠り運転などは一度問題が生じてからの対応のまずさが浮き彫りになっており、私は、同社が他にも大きな歪みを抱えているのではないかと懸念しました。 JR西日本はどこかで安全を置き去りにして、利益を優先してきた。そう言われても仕方のない今回の脱線事故の背景にはどのようなものがあったのか、ここで改めてまとめておきたいと思います。 1.運転士の起用に疑問 2.余裕ゼロのダイヤで定時運行 3.ATS-Pの未導入 4.日勤教育へのプレッシャー ●背景のさらに背景には… こうした企業体質のさらなる背景には、1987年の国鉄民営化が最も大きな要因として挙げられます。当時、合理化のため大規模な人員削減をしました。新規採用も民営化後数年間は凍結されました。それが運転士の年齢構成にはっきり現れており、なんと30歳代がほとんどいないのです。中高年の運転士が大量に退職しつつある中で、20歳代の若い運転士の数が増えています。上述した運転士の無理な起用についても、こうした年齢構成の偏りが影響していると思われます。 もう一点、当時、民営化に反対しようとした労働組合の勢力は徹底的に封じ込められてきました。反対の声を上げた運転士の中には、乗務を外され、駅下にあるアイスクリーム屋さんで6年間働くことになってしまった人もいると言います。反対した人たちは軒並み、掃除などの雑用をやらされる、鉄道員として屈辱の日々が続きました。民営化に反対だった人たちの勢力は急速に弱まり、結果として、「会社の言いなり」に近い人たちがJRに残った形となりました。こうした方策により、上下関係の厳しい、上司に物を言えない、非常に風通しの悪い風土になっていったと言われています。 日勤教育は現場の上司に裁量が任されており、懲罰的になりやすく、運転士に大きな重圧を与えていました。余裕ゼロのダイヤで運転士の間では「無理な設定」と危険性も指摘されていたのに、警告を発することができずあきらめて沈黙する…。職場の実態を把握し、会社を正していくべき労働組合は完全に弱体化して本来の役割を果たしていない。そして、事件当日に死傷者が多数出ている事故であることを知りながらボウリングの中止を上司に進言できなかった若手社員、事故電車に乗り合わせていたのに罰則を恐れ事故の電車を乗り捨てて職場に向かった運転士とそれを指示した上司。つまり、事故以前の問題から事故後の不始末まで、閉塞的な企業風土が全ての遠因になっているのではないかと考えます。 さらに、民営化後は利益を出さないと会社として残れないわけですから、JR西日本は利益重視へと大きく変革していきました。その中で安全面への投資は利益とのバランスの中で行うことを余儀なくされます。福知山線が急速に過密化・高速化して定時運行を強く求めるのに対し、一方で肝心のATS-Pの導入が遅れると言う大きな歪みを生んでしまったのです。 こうした問題は、上記のようなJR西日本として民営化したことによる独特の事情があることはもちろんですが、日本の会社では多かれ少なかれこのような歪みを抱えていることも認識しておかねばなりません。例えばこれが鉄道会社でなく製造業であっても同様です。社外に対しては顧客志向を謳いながら、社内では利益確保と拡大が第一優先で、肝心の品質が2番目に来てしまっているケースが実に多いのです。また、人員削減や新規採用凍結によって個々人の負担に無理が生じ、いつ重大事故を引き起こしてもおかしくない会社は少なくありません。日本の企業の多くが抱える歪みとして、社会全体で考えなければならない問題でもあります。 ●最大の誠意は”安全No.1”の会社になること 事故を教訓にしてJR西日本がすべきことは何か。遺族や負傷者への補償、衝突したマンションの賠償などは当然ですが、指摘された問題点を謙虚に反省し、再度、一から出直す気持ちで全てを見直していただきたいと強く望みます。「今まで問題なかったからやらない」はもはや通用しないでしょう。 運転再開について当初、ATS-P設置を待たずに事故現場徐行のみで対応しようとして反感を買いました。大事故を起こしながら、再発防止の具体策の一番手にも挙げられる対策に消極的な姿勢を垣間見せたのは判断ミス以外の何物でもありません。また、5月中旬、垣内社長が国会答弁の中で、安全投資のあり方や日勤教育が「直接は事故と関係ない」と言い切り、責任逃れをうかがわせる発言を行ったことも大変問題であります。こうした甘い認識のままでは再び事故は起きてしまうのではないかと言う懸念を抱かざるを得ません。5月末には安全性向上計画を提出しましたが、数日前には国との認識のずれが露呈し、実は国土交通省から原案を一度突き返されていたのです。 信頼は何十年もの積み重ねがあってこそ生まれるのです。6月19日、事故から55日ぶりに運転再開されましたが、JR西日本が一度失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。だから、運転再開に必要なことだけをやれば良いという安易な発想だけは決して持っていただきたくないです。同社がやるべきことは、他社に先行する最新の安全装置を導入するとともに、ハード面だけでなく企業風土を含めたソフト面と併せて安全最優先を徹底する会社に生まれ変わり、”安全No.1”と自信を持って言える姿になることと考えます。それこそが犠牲者、被害者に対する最大の誠意であり、また、鉄道史に残る大事故を起こしてしまった会社としての社会全体に対する責務でもあると私は思います。逆に言えば、”安全No.1”を目指す強い決意がなければ、JR西日本の”真の”再生はあり得ないと考えます。 関連トピック Train Topics 第78話 「泣いたふりして…」発言の波紋〜JR福知山線脱線事故Part3〜 Train Topics 第77話 過密化と余裕のないダイヤ設定〜JR福知山線脱線事故Part2〜 Train Topics 第76話 鉄道の信頼を覆す大惨事〜JR福知山線脱線事故Part1〜
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