Topic 第84話 因果関係の見極めを〜JR福知山線脱線事故Part5〜 (05/11/03)

 今回のTrain Topicsでは、脱線事故から半年余りが経過してKochanが思うことをまとめて述べさせていただきます。

●信頼回復への手探りが続くJR西日本だが…

 脱線事故から55日後の6月19日、まだ事故原因が解明されない中、JR福知山線(宝塚線)宝塚〜尼崎間の運転が再開されました。運転再開に向けて、新型ATSであるATS-Pの設置、宝塚〜尼崎の所要時間を従来より平均55秒延ばした暫定ダイヤの導入、そして直線での最高速度を従来の120km/hから95km/hに落とし、事故現場のカーブ制限速度も70km/hから60km/hに見直されるなどの対策がとられました。今考えてみますと、これらの安全対策の内容、中でも特に所要時間の延長と制限速度の見直しについては大いに疑問があります。

 まず、所要時間を55秒延ばしたということで、これだけを聞けば「ゆとりのあるダイヤになった」と考えられますが、直線での最高速度を120km/hから95km/hに落としたと言うことは逆に所要時間がかかるようにしたわけですから、結局は余裕がないままではないのかと。今までが厳しすぎる設定だったことを考えますと、3分程度は延ばさないと本当にゆとりを感じることはあり得ないと思います。沿線住民でない者がコメントするのは差し出がましいようですが。

 また、直線での最高速度を120km/hから95km/hに見直されたのは、これは特に科学的な根拠があるわけでもなく、遺族や周辺住民の感情を斟酌したものとしか考えられません。つまり、これだけの大事故を起こした同社が、事故区間を120km/hものスピードで走ることは許されないということで、「ペナルティ」的な意味合いが強いと言えます。もしJR西日本が”危険な鉄道会社”で120km/hを出す資格がないのであれば、神戸線や京都線などを含む全線でも直ちに速度制限を95km/hに落とすべきで、福知山線の事故の区間だけを95km/hにする理由になりません。もし、事故現場の速度制限60km/hとの差異が大きすぎることを危険と考えるのならば、手前で段階的な速度制限(例えば100km/h・85km/h・70km/h)を設けてそれぞれにATS-Pを設置すれば問題ないはずで、何も全ての区間で95km/hまで落とす意味はあまり感じられません。

 暫定ダイヤを国土交通省に提出する際、同社幹部が来春に速度制限を120km/hに戻すことを示唆したことが遺族を中心に強い反感を買いました。しかし私は誤解を恐れないで述べますと、上記の段階的な速度制限などの対策をとれば、暫定ダイヤでの所要時間をそのまま保ちつつ、直線での最高速度は120km/hに戻しても問題ないと考えます。その方がダイヤとしてはゆとりが生まれ、運転士にかかるプレッシャーも軽減されるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

 ところがです!!11月に入って、運転再開への第一条件とも言われた肝心要のATS-Pに速度設定のミスがあったことが明らかになりました。京阪神の主要路線で合計96箇所に誤りがあり、うち30箇所では所定速度をオーバーしてもブレーキがかからない状態だったのです。逆に、脱線事故後に設置された福知山線を含む66箇所では所定速度より5km/h低く設定されていました。ATS-Pは、安全設備の根幹を成すとも言える装置であり、ましてや事故後に大きくクローズアップされている中での設定ミスですから、非常に重く受け止めなければなりません。

 しかも、その対応が非常に見苦しい。国土交通省航空・鉄道事故調査委員会から資料提出を求められた時に気づいた、つまり社外からのチェックがきっかけで見つかったと言う”みっともなさ”もさることながら、調査を理由にミスを速やかに公表せず、さらに「低い方の誤りはより安全だから問題ない」と言い訳したことは大きな問題です。ミスを防止するためのチェック体制の確立と同時に、コンプライアンス体制が本当に機能しているのか確認して欲しいと思います。

 安全性向上計画を策定し信頼回復へ取り組むJR西日本ですが、この不始末で同社の”変わらない体質”をかえって浮き彫りにしてしまいました。運転再開の大前提であり切り札でもあったATS-Pが間違っていたのでは話になりません。これでは、先ほどの最高速度を120km/hに戻す提案も一旦撤回せざるを得ません。

未だに事故原因の一番手?「過密ダイヤ」

 新聞記事を読んでいて、事故から半年以上経った今でも気になることがあります。事故原因として真っ先に「過密ダイヤが背景にある」などと書かれていることであります。第77話 過密化と余裕のないダイヤ設定でも指摘しましたように、過密ダイヤとは電車の本数が多く、ノロノロ運転や信号待ちなどの不都合や、先行列車との距離が 縮まることで安全性の問題が出てくることを指します。追突事故であれば過密ダイヤを背景の一つと考えてよいと思いますが、今回の事故はカーブでの速度超過が直接の原因であり、これは過密ダイヤとは全く関係がありません。問題なのは、余裕ゼロのダイヤ設定であり、これが速度超過に結びついたと考えるのが自然です。

 では、事故から半年も経ってなお、これほど間違った的外れな認識が未だに広がったままなのでしょうか。事故から半年を機に開かれた事故説明会で、過密と言われたダイヤ設定に「私鉄と比べ、過密ではない」と、このような低い次元での説明が未だに繰り返されていることに違和感があります。私はこのことを不思議に思いましたので、2つの側面から考察することにします。

 やはり最も大きいのは事故から数日間は特に、テレビ・新聞などで「過密ダイヤ」の問題を真っ先に取り上げたことにあると考えます。マスコミによる煽りがさらなる拍車 をかけました。事故から4日後に放送されたNHKスペシャルでも過密ダイヤを事故の背景の一つと考える報道をしました。そして特に、下記に示す朝日新聞5月10日付の天声人語は最もあからさまな間違いです。

【朝日新聞5月10日付の天声人語より引用】
先日、JRの尼崎駅に降りた時、時刻表を見た。脱線した電車と同じく、この駅から大阪の北新地などへ向かう線の本数は、朝8時台で上りが13本だった。そして、大阪駅や京都駅へ向かう線の方には、40本あった。東京の山手線が二十数本だから、確かに、かなり密だと思った。
JR西日本は、今後の安全策の一つとして、過密と指摘されているダイヤを見直すという。主要路線で便数を減らすとすれば、民営化以来初めてである。重大事故が起きて、ようやく、増発と加速に歯止めがかかりそうだ。

 この「確かに、かなり密」という指摘、事故原因に無理やりつなげる強引さはもちろんですが、重大な事実誤認をしています。「大阪駅や京都駅へ向かう線の方には、40本あった」としていますが、これは複々線での話です。つまり片側に線路が2本走っているのです。それを片側1本の複線である山手線と同じ土俵で比べること自体に無理があります。この記事は時刻表という資料だけに基づく論理であり、実態を全く鑑みていないと言えます。さらに「増発と加速に歯止め」という言葉からは過密ダイヤと余裕のないダイヤを混同している様子も伺えます。

 マスコミの影響は大きいもので、これだけ啓蒙されて擦り込まれてしまっては、もはや払拭することが困難であります。5月中旬になって、夕方のニュース番組で特集があり、「過密ダイヤは事故とは関係がないのは 正しいと思います」と記者が説明し、近鉄西大寺駅周辺で電車が信号待ちをしている様子や、阪急淡路駅付近をノロノロ運転する電車の様子を映して、他の私鉄でも日常起こっていることであると示していました。しかし、あまりにも遅きに失しました。

 もう一つの傾向として、人間は「ありそうな」「分かりやすい」事象に心を奪われる傾向があります。余裕のないダイヤは、鉄道関係者以外では実際に電車を利用している人で普段から多少なりとも興味を持っている人くらいしか気づきません。ダイヤの本を調べても、従来に比べてスピードアップしたかぐらいは分かると思いますが、余裕があるか否かまでは分かりません。しかし、運転本数が増えているかどうかは昔と今のダイヤを比べればすぐ分かります。福知山線ではこの20年間で運転本数が4倍に増えていたことから、真っ先に「過密ダイヤ」を槍玉に挙げてしまったと考えます。

 こうした因果関係の取り違えは間違った結論を生み、そして間違ったアクションにつながるので気をつけなければなりません。福知山線の暫定ダイヤが、下手すれば、余裕のないダイヤを全く見直さずに本数だけ削減してそれで良しという話になりかねなかったわけです。「ありそうな」「分かりやすい」事象だけに飛びつかず、客観的に物事を捉えて、True? Why?と立ち止まってクリティカルに考えることが重要と思います。

 他にも、ある新聞が運転士にインタビューして「5秒刻みのダイヤ」を問題視する項目に挙げていました。でも5秒刻みはどこの鉄道でも同じ、田舎のローカル線だって5秒刻みのところがあるはずで、事故の背景として捉える事象としては不適です。5秒刻みが問題と言うより、5秒刻みであることを記者自身が今まで知らなかったから衝撃的だっただけではないのかと思ったりします。

●何でもかんでも批判すればよいものではない

 事故後のマスコミ報道については、第78話 「泣いたふりして…」発言の波紋で述べてきましたが、とにかくJR西日本を悪者にしておけばよいという空気が充満していました。気になった事例をもう少し検証してみましょう。

1.乗り逃げ運転士の年休
 事故電車に乗り合わせた運転士2人が救助活動をせずに出社した問題で、マスコミによる猛烈なバッシング報道がショックでこの運転士2人が体調を崩し、ゴールデンウィーク中を含めて数日間、年次有給休暇を取得したと記者会見で発表されました。この時ニュースキャスターは「年休だなんて言語道断、自分のやったことに向き合って欲しい」と言いました。私は思いました。「年休を取らずに ショックを引きずって呆然としたまま電車を運転しろ」とでも言うのかと。年休で遊びに行っているわけでもあるまいし。

2.見舞金詐欺
 事故で「負傷した」と嘘を言ってJR西日本から見舞金3万円を騙し取った人が逮捕されました。JR西日本社員と喫茶店で面会し、見舞金を受け取っていたと言います。TBS系「朝ズバッ!」ではみのもんたが「影でコソコソやってんじゃねーよ」と一喝。一人一人にきっちりと会って謝罪し見舞金を渡す。これのどこがいけないのでしょうか。「 負傷者を一同に集めてまとめて見舞金を配布したほうが良かった」とでも言うのでしょうか。

3.事故現場での遺品探し
 運転再開日が近づき、電車が衝突したマンションの住民がマンション敷地内を捜索し、遺留品を回収しました。翌日、今度はJR西日本の社員が事故現場の線路内を捜索しました。これを報じたワイドショーでは「順番が逆じゃないのか、先にJR西日本が捜索すべきでは」と 非難しました。はっきり言って、1日違いでどっちが先でもたいした問題ではないでしょうに。もしJR西日本が先に捜索すれば、「さっさと運転再開したい思惑が見え見え」とでも批判するのではないでしょうか。

4.運転再開当日
 始発電車に垣内社長が乗り込み、自ら安全を確認しました。TBS系「朝ズバッ!」ではコメンテーターが「マスコミ向けのセレモニーとしか思えない」と皮肉りました。もし垣内社長の姿がなかったらなかったで、「社長が自ら乗り込んで安全を確認するくらいのことがあってもいいんじゃないか」とやっぱり批判するのではないですか。 それに、興奮したレポーターが「乗り込んだ垣内社長、どのような心境でしょうか」とヒステリックな声で言ってましたけど、レポーターが期待するであろう答えを 、一緒にテレビを見ていた私の母が言いました、「心の中でベロ出しとるんやろ…」。まあちょっとこれは言い過ぎですが、それくらいマスコミのレベルが低かったと言うことです。

 ここで述べておきたいことは、批判的な目で物事を見れば、どんなことでも悪く見えてしまうということです。批判して叩くだけなら誰でもできます。JR西日本が大事故を起こした、不祥事があったからと言って、短絡的にあれが悪いこれが悪いと言うだけでなく、じゃあ、どうすれば良いのか、自分ならどうするのかを考えてみませんか。そのことが視点をより客観的なものに広げ、今の批判が妥当なのかが分かってくるのでは、そんな気がしています。


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